世代を問わず増えている心の病気、うつ。ストレスを抱える大人の病気というイメージを抱きがちですが、近年は子どものうつも増え、軽視できない状況です。
特に夏休みなど長期休暇の後は、学校へ行くことに抵抗感を抱く子どもが増えがちな時期でもあります。まずは、うつという病気の現状や要因を知ることが大切です。病気の兆候や、保護者が気をつけるべき注意点などについて解説します。
三重大学 保健管理センター 教授 谷井久志医師
臨床心理士、公認心理師、精神保健指定医。東京大学教養学部基礎科学科卒業後、大阪大学医学部に編入学し、1992年卒業。大阪大学大学院医学研究科を経て、1997年よりスウェーデン・カロリンスカ研究所へ留学。2018年4月より三重大学保健管理センターへ。
うつ病とは?
感情面や精神面、意欲面、行動面で落ち込み、低迷する状態がうつ状態です。
近年は、大人と同様、子どももうつ病などの精神疾患にかかると考えられています。大学生や中高生はもちろんですが、小学生でうつ病を発症する子どももいます。
うつの兆候は、「やる気が出ない」「食欲がない」「眠れない」などの形で表れます。このような症状が2週間ほど続き、改善されない場合に、うつ病である可能性が高いと考えられます。
子どものうつの要因は?
うつについては、さまざまな要因が考えられます。子どものうつ病が増加した背景については、生活環境が多忙になったことや、偏食による栄養不足、ホルモンバランスの低下などが挙げられます。
また、現代は子どもの身近に美容やファッションに関する情報があることも要因になっているのではないでしょうか。低年齢時に不必要なダイエットをしてしまうことも、うつ病発症のリスクになる可能性があります。
さらに、少子化などの子どもを取り巻く環境の変化により、コミュニケーションが苦手な子どもが増えたことも見逃せません。学校や社会でのストレスに、対処しにくくなっていることも影響していると考えられます。
子どものうつ病の発見
子どもの心のSOSサインは、睡眠、食欲、体調、行動の4つの面に表出することが多いといわれています。
下記のようなサインが続いている場合には、子どもとゆっくり話をして、辛い症状が続くようなら専門家に相談しましょう。
子どもの心のSOSサイン
睡眠
- 布団に入ってもなかなか寝つけないようだ
- 遅くまで夜更かししている
- 朝、起きるのが辛そう、なかなか起きられない
- 睡眠のリズムがくずれている
- 眠れないと言う
- 寝すぎている
食欲
- 食欲がない
- 食べる量が減った
- 食べ過ぎている
- パンやご飯、お菓子類などの炭水化物を欲しがる
- 急にやせた、急に太った
- 体重をとても気にしている
体調
- 体がだるそう
- 疲れている
- 元気がない
- 顔色が悪い
- 腹痛や頭痛、めまい、吐き気などを訴える
行動
- 学校に行きたがらない
- 家から出ないでひきこもりがちになった
- 友だちと遊ばなくなった
- 身だしなみに構わなくなった
- 無口になった
- あいさつをしなくなった
- 何度も同じ動作や行動を繰り返す
- 気持ちが抑えられなくなり、暴力をふるう
- 何もしないで長時間ぼんやりしている
- 表情が変わらず、感情面での反応が少なくなった
- 話が支離滅裂になった、通じなくなった
- 独り言を言うようになった
受診タイミングと服薬の注意点
頭やお腹が痛いなどの身体的症状が2週間以上続いた場合は、まず、かかりつけの小児科などで、体の病気について診療してもらいましょう。
体の病気が認められなければ、児童精神科のある病院やクリニック、心療内科などを受診することをおすすめします。
診断は大人と変わらず共通の指標を用い、抗うつ薬も大人のものと変わりません。子どもは抗うつ薬に反応しやすく、副作用が強く出ることがありますので、服薬の際は副作用に細心の注意をはらうことが必要です。
近年は、抗うつ薬などによるActivation(不穏・焦燥・自殺を図ること)などが問題になっており、投与は慎重に行われるべきです。医師と相談の上、治療に薬を使わない非薬物療法との組み合わせなどを選択肢の1つとして検討するのもいいでしょう。
最後に
子どものうつを引き起こす背景としては、転校、引っ越し、両親の離婚、友人との別れ、失恋、成績不振、不必要なダイエットなど、さまざまな出来事が影響を及ぼしかねません。
まずは、環境や心境の変化、成長のステップなどをしっかりと見守っていきましょう。その上で、いつもの様子を知っている保護者が「普段と様子が違う」など、子どもの異変に気付くことが大切です。
異変に気付いた時には、回復を焦らず、まずは栄養バランスのとれた食事と、十分な睡眠、規則正しい生活を送れるようにケアしましょう。
イラスト:竹内舞/文:花野静恵
この記事は「頼れる病院・クリニック2016-2017」「頼れる病院・クリニック2022-2023」(ゲイン刊)に掲載された記事をもとにしています。掲載内容は取材時のものです。